REPORT 2018.04.24 #culturestyle

踊り子りおんのレポート(4)映画「ミスター・ガガ 心と身体を解き放つダンス」

約8年にも及ぶ密着から描き出す、稀代の振付家の人生。

 こんにちは、りおんです。

 今回は、映画『ミスター・ガガ 心と身体を解き放つダンス』を観に行ってきました。いやー、個人的なことを言わせていただけるなら、私の人生を大きく左右するかもしれない1本に出会えました。観に行って本当に良かった。DVD欲しい。

 

 この映画は、世界的振付家であるオハッド・ナハリンさんを追ったドキュメンタリーです。彼が率いるイスラエルのコンテンポラリーダンスカンパニー「バットシェバ舞踊団」が、2年ぶりの来日公演を行うタイミングに合わせての公開となりました。素晴らしい振付家として、そして、バットシェバ舞踊団の芸術監督として。ナハリンさんの名は舞台芸術を好む世界の人々に知られていますが、彼がそれまでにどんな人生を送ってきたのかを知る人は、あまりいないのではないかなと思います。

 

 幼少期のこと、軍隊で配属されたエンターテインメント部隊での経験、ダンサーとしての彼とNYでの日々、人との出会い、振付家としての始まり、そしてイスラエルに戻るという選択…。もちろん、この映画で語られるのは彼の人生のごく一部のみだとは思いますが、本人や関わった人へのインタビュー、昔の映像、リハーサル風景も交え、「振付家としての彼」がどんな道を歩いてきたのかを辿ることができます。また、彼の人生とリンクするように差し込まれる作品の映像がたまらないんですよ!

 

 作品は作品として創られているはずだから、例えばその時に説明されていた人生上の出来事と関係があるとは限りません。でも、どこかがリンクしているようにも感じられ、新しい作品の見方を提示されているようで、すごく引き込まれました。彼と彼が生み出した作品の持つ力に驚嘆したエピソードを1つだけ紹介させてください。ネタバレを好まない方は、読み飛ばしていただければと思います。それはイスラエル建国50周年式典、前日の出来事。式典で上演する作品のゲネプロを見た政府関係者から、宗教的観念を理由に衣装の変更を迫られる事態が起きたそうです。

 

 振付、ダンサー、音楽、装置、衣装…その全てが必要不可欠なものとして存在し、それらが融合して作品になる舞台芸術は、衣装が少しでも変わってしまうだけで作品が壊れてしまうと言っていいと思います。最初、ナハリンさんは、「衣装を変えて上演するが、そのあとで自分は(芸術監督を)辞める」と言ったそうです。その時の彼の葛藤と苦しみは、私などには計り知ることができません。しかし、ダンサーたちが「私たちはあなたと共にある」と言ったことで、最終的に彼は上演のキャンセルを選択しました。

 

 前日からニュースの話題にも上り、論争を引き起こしていたというこの出来事。上演キャンセルという決断は、彼らに対する批判ではなく、政府に対する反発運動を引き起こすことになりました。私には、当時のイスラエルの政治的・宗教的背景は分かりません。元々イスラエル国民の中に思うところがあり、この出来事はそれが噴き出すきっかけにすぎなかったかもしれません。ただ、素晴らしい芸術と、それを貫く人というのは、時としてとてつもない影響を及ぼし、時代も考え方も変えてしまう力があるのだということを、改めて思いました。

 

 ちなみに、この時に上演される予定だった作品は、2年前の来日公演で一部を観たことがあります。すごいですよ…。理屈なんて全部ぶっ飛ばしてすごかったです。この映画の密着取材期間は、実に約8年にも及んだそうです。これだけの期間をかけ、作り手がナハリンさんの人生や考えを共有し、理解している(または理解しようとしている)から、表面的なものではなくてとても深い部分まで描き出しているように感じられました。

 

 ナハリンさんの話には、非常にマニアックな部分もあり、また、ドキュメンタリーである以上は何か1つでも興味がなければ、全く面白みのないものかもしれません。しかし、興味がある人間にとっては、非常に濃く、見応えのある映画だと思います。

 

 ちなみにタイトルである「ミスターガガ」は、彼が生み出したメソッド「GAGA」に由来しています。彼が腰を痛めたことがきっかけとなって生み出されたGAGAは、身体が本来持っている感覚を呼び起こしたり、動く喜びを実感したりするメソッドで、ダンサーだけではなく一般の方でも参加できるのが特徴です。

 

 来日公演の際にはワークショップがあることも多いので、一般の方向けの「GAGA People(ガガピープル)」がある際には、ぜひ参加してみてください!

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